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激しい雨が降っていた
やけに雨音だけが耳に入るこの店の中で1人
貴方を待つ私の空間だが
時間に取り残されているように思える。

貴方は幻のような人だと思っていた
これほどに思っていても
何も気の無い素振りで私の横を通り過ぎてゆくだけ

話をしていても 全く聞く耳もたない・・という顔をして、
その 細い指の間に挟まれた煙草を ゆっくりと口にする。
わざと 私のほうへと吐き出される煙が
いつも この喉を汚染させているのだ。

『 そうやって 私の方へ煙を吐くのはやめてくれない?』

一応不機嫌そうな顔をしてそう答える私の
そんな言葉にさえ 只笑っているだけだ。


そう このどうしようもないほどの 屈託の無い笑顔に
私は洗脳されている 犯されている。
この躰も この瞳も この胸も・・・・ 
全てを占拠し 侵入し 遠慮もなく座り込む。
見つめられる その瞳に捕まった瞬間
全てが 無 になり  何もかもが 桃色に染まってゆくのだ。

『 ・・・・・ 愛してるわ 』 

そう 女にいわせる貴方は 一体何者なの?
同じ様に 只笑っているだけ・・
何も答えはしない

どうか 狂った私の心を正常に戻して

『 今度はいつ会えるの? 』

ありきたりの台詞を口にする私に 
貴方は 只 「 わからない・・」とだけ 答える。
淡々と過ぎてゆく 2人だけの時間。
当たり前のように 送り帰される12時の鐘.

『 それじゃ・・ 』

そういって別れてから 今日が一ヶ月後の日になる。
ようやく一日の仕事も終り
久しぶりに飲みにでもいく?
と友人に誘われる数分前・・

『 あ 俺だけど・・・ 今日の午後九時
いつもの店で待ってて 』

相変わらず 用件だけを一方的に伝えると切れる電話に
私の都合など 考える余地は無いようだ。

もう 貴方の顔さえも忘れてしまったかもしれない。
この日も 相変わらず止まない雨。
私の心の中も土砂降りで
降り止まないのだから 
この雨は 私の心の中なのかもしれない。

こうやって 貴方を待つのも 今日で何度目になるのだろう
会うほどに離れられなくなる私を
貴方はどんな気持ちで 感じ取っているのだろう。

いつも座る窓際の席に座っていると
雨の中 貴方は数メートルの所からこの視界に入ってくる。
傘もささず、 かといって 走る事もせず
いつものように 店の中にいる私を見つけると
左手を大きく振るのだった。

いつもと違うことといったら
右手がその重みに抜け落ちそうなほどの
巨大なカサブランカの花束。
それも どうみても花屋で買って来たような感じではない。
無造作に切られた そのカサブランカの束は
雨に濡れぬように 貴方の上着で包まれている。

カラン・・・とカウベルの音がして 店の扉が開いた。
全身びしょぬれの男が入ってくるのを 店員が怪訝そうな顔で見つめる。

『 ごめん  すぐ終るから ちょっとだけ・・・ ね 』

勿論その姿は店員だけでなく ほかの客の注目を浴びる事になる。
悪びれもせずに ゆっくりとあの笑顔を浮かべながら貴方は近付くと
上着をはらい そのカサブランカの束を差し出すのだ。
店内を ゆっくりと 濃厚なその香が漂い充満してゆく。

『 ほら 早く受け取れって 』

ぐいっと もう一度胸元に差し出されるのを
慌てるように受け取る私に 貴方はゆっくりと答えるのだ。 

『 引越しの手配したから 明日お前の部屋に転がり込むんで 時間空けとけよ 』

何の事を言っているのか 最初は全くわからなかった。
丁度部屋をシェアしていた友人が
留学の為に部屋を出て行ったことを貴方に伝えたのは
大分前だったように思う。
もう 話した自分さえも忘れていたことを
貴方は聞いていたの言うの?

いつもとは逆に 今度は私が黙ったままになるのを
貴方はどんな気持で見ていたのだろう。
固まったまま 微動だにできない私の腕を
貴方は しょうがないな・・ という顔をして強引につかむ。

『 店 汚してゴメンネ 』

グシャグシャになった何枚かの御札を
 レジに立つ可愛い女の子につかませると、
外へと連れ出すのだった。

驚く程に あれほど土砂降りだった雨が
私たちが歩き始めるとゆっくりと止み始める。
ポツポツと落ちる小さな雨粒が
胸に抱えたままのカサブランカにあたり
私の体は その香に包まれていった。

一言も喋らずに 私のマンションについたのは何時だったろう。
当たり前のように鍵を開け 当たり前のように室内に入る。
テーブルの上にそっとそのカサブランカを降ろすと
その香はまだ 途切れることなくこの部屋をも染めていった。

タオルを手に 珍しく玄関の所に立つ貴方の元へと歩くと
その濡れたままの躰で 強引に私の躰を抱きしめた。

今までにこれほどまでに抱きしめられた事があったろうか。
濡れた髪から落ちる滴が 私の頬を伝い床へと移動していくのがみえた。

『 結婚してみるっていうのは どう?? 』

数センチ離れたその瞳がじっとこちらを見つめる。
ドンドン・・と鳴り止まない鼓動の高鳴りと
その答えを切り出そうとする唇を 貴方は塞ぐ。

腕に支えられていなければ 崩れ落ちてしまう躰を
一時も緩めずに 貴方は抱きしめる。

やっと ほんの少し解放された唇の瞬間
を狙い 私は小さく答えるのだ。

『 いい考えかも・・・ でも どうして? 』

密着する体どうして 私の服も雨に濡れた
答えを返すまで逃げ回る私の唇を
ようやっと貴方は捕まえると

『 ・・・ なんとなく・・』

そういって 暫く笑うと 付加えるように答えるのだ。

『 お前と一緒にいたいから ・・それだけじゃ駄目か? 』

占拠されていた心は 無駄ではなかった。
そして 私が口にしていた言葉を 貴方は 初めて口にするのだ。

『 あいしてるよ 』

どれが涙で どれが雨粒なのかもわからない。
永遠にこのときが続くのか・・
それすらも 私たちにはわからないけれど
この瞬間は 永遠に続くと思っている。
いや 多分 いや 絶対に。・・ 

『 。。 あのカサブランカ どうしたの? 』

え?? という顔をして 貴方は申し訳なさそうに答える。

『 あ。 あれ 此処来る途中に咲いていたやつ。 
誰かの家のなんだろうけど、 
あまりに綺麗だったからさ  
気がついたら あれだけ切って手にしてた。
あれだけあったら お前驚くかな?? って思ってさ。』

『 普通そういうのは 花屋で買うのよ。』

『 あ・・ そうか そうだ 買えばいいんだ 』

5年もの間付き合っていたけれど
こんなにも 貴方がおかしな人だとは思わなかった。
一体 どのぐらいのときを一緒に過ごせば
貴方という人間を知る事になるのだろうか。

多分 明日の朝になれば 
カサブランカの花が無残にも切られている事に
その家の住人は驚くだろう。
私は心の中で小さく ごめんね といってみた。

貴方に負けないほどに抱きしめ返すと

『 愛してるわ 』

いつものように 私が答える言葉には
貴方は笑ったまま 何も言葉を発しない。

しかし、 いつも感じていた不安は
もう此処には存在しない事を
私はこのとき気づくのだ。


多分私は カサブランカの花を絶やす事は無いだろう。
いつもこの部屋に 此花は咲きつづけてゆく。
此処からは 新しい二人だけの世界が広がるのだ。
カサブランカの香が 永遠にこの部屋を漂うたびに 
私はこの日を思い出し 決して忘れることは無いだろう。
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